from heart beat

観たものについて書いたり書かなかったりします。

フラッシュダンス感想

ご無沙汰です。9カ月ぶりの推しの現場で生き返ったオタクです。
ミュージカル「フラッシュダンス」を見てきたのでその感想を書きました。全体、キャストについてと、最後に気になった点も少し。
※大千秋楽後に加筆修正。

全体

新型コロナの影響で多くの作品が上演中止になってしまってから久しぶりに見れたミュージカル。一幕冒頭の、オールキャストが「Life is a dance!」と歌い踊る光景は復活の狼煙のようで、めちゃくちゃ感動的でした。
この一曲の中だけでもどんどんセットが動くし、展開がとにかくスピーディーで、置いていかれないように初日は見てる方も必死でした。集中して血が脳をどくどくめぐる感覚、楽しいよーー!!

最初はアレックスの話!な印象が強かったんですが、2回目3回目と見たら結構変わりました。アレックス、ニック、グロリア、ジミー、それぞれの夢や目標を持った4人の若者たちが現実にぶち当たって、さあどうするか、が核になってる。

アレックスはダンサーになりたい。ニックは一人前の工場の跡取り(ビジネスマン)になりたい。グロリアはテレビに出るようなキラキラした世界へ行きたい。ジミーはコメディアンとして成功したい。みんな夢や目標がある。
でも、アレックスはダンサーとしての経歴の劣等感からオーディションを受ける勇気がないし、ニックは製鉄所の工員をリストラさせないための代案を思いつくも、上層部に聞き入れてさえもらえないし、グロリアは甘い言葉に誘われて危ない道へ行ってしまうし、ジミーは思い切ってNYへ行くけど全く笑いがとれない。現実、うまくいかねえ~。

アレックスは他の3人と違って、夢への一歩を踏み出せないでいるんですよね。(グロリアの進む方向は間違っていたわけだけど、今の環境を変えたくて行動してる点ではニックやジミーと同じだと思う)
そこに、「ノー」と言われたニックだからこそ言える、「現実と向き合わないためなら君(アレックス)は何でもするだろう。君はノーと言われることを恐れてるんだ」の言葉。いやーこんなこと言われたらそりゃカッとなるよね、でも図星なんです…。ここ、挑戦する権利も技術も持っているのに行動しないアレックスへの苛立ちを隠しきれないような言い方でとても良かった。
言い返すアレックスの、コンプレックスや葛藤が爆発したような「恐れてなんかない!私は賢いだけ!」も刺さった。好きなもので評価を受けて、コテンパンに否定されたらどうしようという恐怖や不安。今の位置なら、憧れを抱いたまま楽しいだけで踊っていられる。
でも、ジリジリと身を焦がすようなダンスへの情熱は抑えられない。ハンナやニックの存在に背中を押されて飛び立つアレックスに、観客も勇気をもらえたのではないかと思います。

最終的にアレックスは「一歩」を踏み出したことでシップレイアカデミーという名門っぽいダンスの学校?に合格できたんだけど、真正面から夢に近づけたのは4人の中でアレックスだけというのが切ないんですよね。勇気と情熱はジミーにもあったのに。
ウケないのにステージに立ち続けるってなかなかできることじゃないと思うんですよ。アレックスとジミーの違いは才能があるかどうかで、そのままならなさがジミーのぶち当たった現実だった。

でも、ニック、グロリア、ジミーも最善で最短距離ではないけどそれぞれ前に進んでいて、力技ではあったけど爽やかなハッピーエンドでした。一度失敗したからといって道がなくなるわけじゃない、またここから始めよう、というメッセージは、この状況でなおさら多くの観客の心に響くものだったんじゃないかなあ。

キャスト

アレックス/愛希れいか
アレックスがちゃぴちゃんじゃなかったらこの作品は成立してないだろうと思わせられるほどにぴったりなキャスティングでした。とにかく!!!ダンスが素晴らしい!!!!!!私は宝塚退団後の作品のちゃぴちゃんしか見てないので、ダンスがすごいというのは噂でしか知らなかったんですけど、本当に本当にすごい。その時その時の感情が動きにのっていて、言葉よりも雄弁。バーのステージで客を楽しませるためのダンスは華やかで、ハンナと一緒にのびのびと踊るダンスは安心感があって、オーディションで見せた自分の殻をぶち破るダンスは、抑圧されてた情熱が一気に弾けたようで、全部違うんですよね。
ちょうど舞台映像のSPOTが公開されたので、ぜひ見てほしい。


ミュージカル『フラッシュダンス』舞台映像SPOT

こんなの「セクシーなのキュートなのどっちが好きなの?」じゃん!!!!どっちのちゃぴちゃんも最高に好き。この動画、衣装が上手いことほぼ網羅されてるのでそこも注目してください。彼シャツも捨てがたいけど、バックステージでのポリス姿の攻撃力が高すぎる。

それにちゃぴちゃんの身体がめちゃめちゃに美しい。足が長いとか顔が小さいとかそういう次元じゃなくて、全身の造形が整いすぎてるんです。野性味がありつつしなやかで、競走馬みたいな力強さと瞬発力を感じさせる脚線美が特に推しです。露出の多い衣装ばかりだけど変にエロく見えないのは、この抜群に強いオーラをまとった身体のおかげだと思う。もはや戦士。日々の鍛錬と自己管理の賜物なんだろうなあ。終わったら好きなものお腹いっぱい食べてください…。

歌と芝居ももちろん良かった!ストーリーの展開は結構忙しいんだけど、ちゃぴちゃんのお芝居のおかげで無理が生まれてないように感じました。ニックがオーディションに口添えしたと勘づいた場面の、疑いから確信、失望への変化が特に印象的。ハンナが亡くなって一度は折れそうになるんだけど、トウシューズを受け取って目に光が戻っていく姿も繊細に演じられていた。このソロ曲が終わってすぐオーディションのダンスを踊るの超しんどいだろうな…。
ダンス・歌・芝居と三拍子そろっている愛希れいかさん、最強です。


グロリア/桜井玲香
キャピッとした雰囲気がめちゃくちゃキュート。TdVのサラと被る場面が多くて懐かしくなりました。今回は吸血鬼のパパじゃなく息子に誘惑されてたし。
「心が迷子」とさらけ出したり薬でラリっちゃう場面がすごく良かったので、正統派なヒロインじゃなくてこういう役でまた見たい。
何度も出てくる「Calling Gloria」のフレーズが、「迷子の自分を呼ぶ」「私を呼んで、と助けを求める」とか全部がきちんと異なる意味合いで聞こえてきて、上手いなー!と思いました。


ハンナ/春風ひとみ
包容力と厳しさとガッツがあって、母親を亡くしたアレックスの居場所になってくれる存在。この人がいるからアレックスは折れずに頑張れるんだろうなというのが真っすぐに伝わってきました。特に、ソロ曲の「A Million to One」が素晴らしかった…!
観劇回数を重ねるごとに、この曲が好きになっていった。老いて体も上手く動かせなくなって、表現者(ダンサー)としての役は終わったけど、まだ諦めない。アレックスを応援するという役を精一杯務める。「小さい役なんてない、あるのはただ小さい人間だけ」のセリフと相まって、人のパワーは無限なんだなと感じさせられた。


C.C./植原卓也
世界観が1人だけ闇金ウシジマくん
本人は「徹底的な悪役で、良いところを探すのが難しいぐらい」と言ってたけど、グロリアのことが好きで支配したくて執着してたんじゃないかなー。特に二幕のグロリアのソロ曲で彼女へ向ける目線とか、ただ単純に金づるとして狙っているだけのようには見えなかったです。二幕ド頭の曲で休憩後の客席を一気に世界観に引き込むのはさすが。この場いただき続けて早ウン年の男~!


ルイーズ&ミス・ワイルド/秋園美緒
見事な一人二役でした。裏でどんな早替えが行われているのか…。前情報を何も入れずに見てたら、同じ役者だと気付かない人もいるんじゃないかな。
オーディションの場面、アレックスのダンスを見るミス・ワイルドの表情がどんどん変わっていくんですよね。この秋園さんの芝居だけでも泣けてしまう。ぜひ注目してほしいです…!


アンディ/松田凌
松田凌が出演しているのをちょくちょく忘れそうになってたんだけど、ちゃんといました。子供が3人いる設定の松田凌を受け入れるのに時間がかかった。
リストラ通告を抗議する場面、突然あの芝居ぢからでぶん殴られるので気持ち良すぎた。本当に密度のある芝居をする…。受ける側の廣瀬は「静の中の動」が魅力の人なので、この場面は二人の性質の違いが面白くて見応えあった。
そして間違いなくこの作品の隠れMVP!!!アンディって、「フラッシュダンス」の世界の中ではすごく一般的な労働者で、夢を追いかけてるというよりは食べるために働いているんですよね。アンディという役がこの作品の「生活」を愚直に体現してたからこそ、アレックスたちの「夢を追いかける姿」がキラキラして見えたのではないかな。


あと穴沢裕介さんのバレエ!アレックスの一次審査で実技試験の手本を見せるスタッフとして登場するんだけど、めちゃくちゃ綺麗でした。

気になったところ

C.C.の店の場面でセットに映し出される映像。これは本当に個人の感覚によると思うんだけど、直接的すぎてちょっとしんどかったです。女の子がパンツをずらしたり手ブラしてたり、Tバックが大写しになったり…。うーん。
映画だとグロリアはトップレスになってるから、そういう場面を指し示してるのだろうし、C.C.のところで働くとはこういうことっていうのを見せる意図があるのは分かる。観客を嫌な気分にさせるのも狙っているのかもしれないけど、それにしても演劇でここまで直接的な映像を見せる必要あるのかなと思ってしまった。


それより疑問だったのはラストの展開。ワダッフィーリン!で全てをうやむやにするな。
原作映画を見れば何か分かるかなと思って見てみたんですけど、映画もワダッフィーリン!の力技でした。

終盤をざっくり説明するとこんな感じです。

アレックスがオーディションに合格して入学の権利を得る→外でニックが花束を持って待っている→アレックスがニックに飛びつき「私、あなたに教えてもらったの。友達の力をほんの少し借りることは、多分何も悪くないんだって!」と言う→What a Feelingが流れる中全キャラクターがステージに出てくる→みんなで歌い踊り終了。ワダッフィーリン!イエーイ!

すごい!何も解決してない!

まずアンディのリストラ問題。
ニックはリストラ通告書を破り捨てたけど、何か解決しましたっけ…。アレックスが合格したから工員に一人空きが出たのでは、とフォロイーが言っていてなるほど!と思ったけど、じゃあ工場を辞めたアレックスはどうやって生活するのか。ハリーの店での稼ぎで食べれるのかな。

次に、ニックがリストラの代案思いついてない問題。
結局、作中では何か策を出せたわけではなかったようで。両親に「家族が望むような人間にはなれない」と言って戦う姿勢を示したのは分かったけど、具体的な展開がないので中途半端感が否めなかった。「名前も名声も捨てて」と歌ってたから、ニックはハーレイ家を出たの…?

そして、ニックがオーディションに口添えした問題。これが一番モヤモヤしてる。口添えっていうよりお金渡してたから賄賂か。
さらにアレックスの「友達の力をほんの少し借りることは、多分何も悪くない」というセリフ。

エエーーーーーーーーッ?????

一般論としては悪くないけど、オーディションについては悪ですよね?そこをアレックスが肯定しちゃダメだよ。例えば、審査員の誰かが「ミスターハーレイは審査結果に関係ありません」とかフォローしてくれたら良かったのに…。
「自分の力で合格したい」と言ってたアレックスはどこに行ってしまったの。

ミス・ワイルドの厳格な人柄やアレックスの圧倒的なダンスを見れば、合格にニックが影響していないであろうことは想像できる。それにニックは「願書をきちんと見てもらう」ように言っただけで、ミス・ワイルドも、それに対して「彼女が合格するという保証はできません」と言うし、受け取ったお金を「なんの裏取引もない支援」と表現してる。
でも「ハーレイ家のご子息からお話があったこと」は事実。ミス・ワイルドは忖度するような人には見えないけど、オーディション会場で左右に並んでた審査員のおじさんたち、権力と金にめちゃくちゃ弱そうだよ。これは偏見です。

家庭環境や貧困で夢への道が閉ざされるのは確かにつらい。でも資産家の友達が正当じゃない(かもしれない)やり方で勝手に力を貸してきて、「まあいっか!」とそれを受け入れる展開は、個人的には許容できなかった。


よくよく考えるとおかしくない?って疑問、ミュージカルにありがちなんだけど、そのモヤモヤをねじ伏せてハッピー100%の気分で観客を帰らせる力のある作品とそうじゃない作品があるじゃないですか。これは後者だったかなあ…。
ただダンスは本当に素晴らしいし、ミュージカルらしい華やかさは十分だし、細けえこたあいいんだよ!って前提なら楽しめると思います。何よりも、この時期にこれだけパワフルで日々進化していく作品を見れて、単純にめちゃくちゃ元気をもらえました。