from heart beat

観たものについて書いたり書かなかったりします。

「千と千尋」「テニミュ4th六角」感想

今年の夏に見た2作品の感想です。ちゃんと文章にして残したい気持ちはずっとあったんだけど、書いては寝かせを繰り返していたら冬になってしまった。

 

舞台「千と千尋の神隠し」@御園座

正直「千と千尋」で遠征することになるとは思ってなかった…。去年、帝国劇場で初演を見て、普通に面白いし良かったけどリピートするほどじゃないかなと思っていたのにこのザマ。「エリザベート」のトートダンサーで好きになった山野光くんがカオナシ役兼スウィングで出演するって聞いたら行く以外の選択肢がなかった。

カオナシ役、小㞍健太・森山開次からの山野光の衝撃といったら…ねえ!?小㞍さんといえばトートダンサーの振付かつロミジュリの死(&振付)だし、森山さんは「ダンス・オブ・ヴァンパイア」のヴァンパイアダンサーで、ダンスに疎い私でも知っているお二人。そんな人たちと山野くんがトリプルキャストで、情報解禁からずーっと楽しみにしてました。

が、台風7号上陸とスケジュールが丸かぶりになり…。当日御園座までたどり着けるのか、行けたとしても無事に帰ってこられるのか、天気予報と公演サイトとスマートEXの払い戻しページを行き来しながら不安な気持ちで見守り…結果、なんとかなりました。ありがとうJR東海。でも翌日は計画運休で大混乱だったので、今回は本当に運が良かったです。

山野くんのカオナシは素晴らしかった!セリフは大体「あ……」だし、顔も衣装に隠れてほとんど見えないのに、存在から動きからカオナシの感情の機微が伝わってきた。このために来て良かった~本当に~~。やっぱり山野くんの身体表現は美しさ、ダイナミックさに加えて、観客の心にストレートに届く純粋なエネルギーがある。

カオナシは青蛙をのみ込む前と後で形態が違って、のみ込む前、山野くん一人で演じるのが単体カオナシ、のみ込んだ後、複数人で演じる複数カオナシ(?)という具合に分かれていました。

単体カオナシで印象的だったのは、周りをじっと観察している間も手の指だけは微妙に動き続けていたり、全身がゆーっくり揺れたりしていたこと。指の動きはオペラグラスで見れば分かるんだけど、引きだと全身がわずかにうねっているように見えて不思議だった。これがまるで、肺の呼吸運動だったり心臓の鼓動のようで、カオナシの肉体がそこに存在しているんだというのを強く意識させられたんですよね。カオナシはそこにいて、生きている。

アニメ映画の単独カオナシはぬーっとそこに居るだけだから、私はこれまでそれを抽象的なものとして捉えていたんだけど、演劇では役者の身体性+前述の呼吸のような動きがあるおかげで、カオナシと客席の人間との間に「生」という共通点があったように思う。だから、カオナシに対して漠然とした恐怖や排除したい気持ち一辺倒にならず、同じ側に立つ生き物として捉えることができた。これはアニメ映画だけを見た私ではきっと得られない感覚だろうから、演劇で見て、それが山野くんのカオナシで良かったなあと思う。

複数カオナシはとにかく演じる役者たちのコンビネーションがすごい!最大何人で動かしてたんだろう、7人はいた気がする。意志を持った一つのカオナシとしてそこに存在していた。山野くんはその真ん中でカオナシのお面を持ち続けたり、前に突き出て表情で芝居したりもしてて、集合体の中心って立ち位置だった。運動量かなり多そう。

全体で一番好きだったのは1幕の、千尋がハクからおにぎりをもらったシーンの直後のダンス。全身がバラバラになりそうなほどの孤独感が波のように打ち寄せて増幅していく踊りで、圧巻だった。千尋は決意を新たに自分の足で立ち上がって前へ進んでいくのに、カオナシは自分と他者との境界が曖昧で不安定なままっていう、千尋カオナシの心の立ち位置が対になっているんだと感じた。悲しみ、怒り、寂しさ、飢餓感を暴力的に撒き散らしてて怖いんだけど、私も身に覚えがある感覚で、見ているだけなのに頭と胸がずーんと重くなった。

カーテンコールでは上白石萌音ちゃんが山野くんを「カオナシデビューです」と紹介してくれて、端に立っていたら三浦宏規くんが真ん中まで引っ張ってきてくれて(事務所が同じだから勝手にエモくなった)、最後には萌音ちゃんに肩組まれて一緒に礼をして、この流れが幸せすぎた!!なんだか分からないけど泣けた。

トートダンサーで見ていたときは、山野くんは身体表現全般に特化した人なのかなと思ってたんだけど、サンリオ男子コンボイ、今回のカオナシを見て、そもそも芝居が大好きな気持ちが伝わってきたんですよね。もっと言葉を使って表現する役も見てみたい。サンリオ男子接触イベントが8月にあったんだけど、握手のときにカオナシ素晴らしかったと直接感謝を伝えることができて嬉しかった。

他のキャストについても少し書きます。
初演は橋本環奈ちゃんで見ていたから、萌音ちゃんの千尋はこれがはじめまして。上手かった!!生まれながらにしてぴったりな役というより、スキルに裏打ちされた役のハマり方だったと思う。舌っ足らずだけどきちんと聞き取れるセリフとか、どんくさそうな動きをするのが上手すぎるところに技術を感じた。
神様たちの世界に行く前の千尋と帰ってきたあとの千尋が、全く別人というほどにバッサリ変わってはいない塩梅の付け方がすごく好きだった。相変わらずビビりだけど少しだけ自信がついて、ふにゃふにゃした中に芯を持つことができたのだと分かる芝居だった。

三浦くんのハクは2回目。千尋に寄り添って励ます人間の体温を感じさせるシーンと、術を使ったり竜に変身する人ならざる者のシーンの差がめちゃくちゃ好き。あらゆる制限を飛び越え、神聖な佇まいを一瞬でまとって舞台上の空気をかっさらえる役者だよ…。「キングダム」で汗まみれ泥まみれになりながら剣ぶん回して戦ってた人と同一人物に見えない。ハッとさせる身体能力だけじゃなく表情と言葉の繊細さも魅力的で、これからも色々な役で見たいです。

そして先日、来年の全国+ロンドン公演のキャストが発表されました!山野くんのカオナシがまた見られる!嬉しい!!新キャストの人たちも新しい風を吹かせてくれそうで楽しみだな~。

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ミュージカル「テニスの王子様」4thシーズン 青学vs六角

楽しかった!!命をかけて戦うヒリヒリした試合もいいけど、スポーツって熱いよね、楽しいよねっていうキラキラした原体験が詰め込まれた夏の時間だった。テーマ曲の「ガムシャラ~エンジョイ!」が直球で最高でした。

D1の試合後、勝って喜ぶ青学の後ろで佐伯に頭を下げて謝る樹が目に入り、部活に全力投球したことがない私でも胸が押しつぶされた。多分、佐伯が樹のパフォーマンスに怒っていたり不満を持ってるわけじゃないことは樹自身も分かってるんだけど、パートナーを信頼して真剣に戦ったからこその処理できない罪悪感なんだろうな。謝るなよと言うように樹の肩を優しく叩く佐伯も良かった。でもベンチへ戻れば仲間がいて、最後にはまた前を向けるフィナーレでとにかく爽やかだったな〜。観劇後こんなに健やかな気持ちになれる作品なかなかない。

キャストの感想で言うと、ジロー役の横山賀山くんがシンプルにめちゃくちゃ上手かったです。ダンスが綺麗だし、歌に感情をのせるのが上手い。海宝くんと同じ事務所かつ元ヤングシンバだそうで色々と納得した。

そしてリョーマ役の今牧輝琉くん!彼の体現する越前リョーマに出会って「テニスの王子様」という作品の解像度が上がった。リョーマみたいな生意気で大胆不敵なキャラクターの良さがこれまであまり分からなかったんだけど、リョーマはこういうところが魅力的で、こういうところが「テニスの王子様」たる所以なんだっていう説得力が今牧リョーマにはあった。

もっと見たい!もっと見せて!と観客の熱を煽る求心力がすさまじい。人間ってこんなに輝きと万能感をまとえるのか。ダンスも他のキャラクターとは一味違うように見えて(元々の振付がそうなのか分からないけど)、頭をクイッと傾けたり、ラケットをクイッと持ち上げる、カッコよさと可愛さを兼ね備えたあの動きは何!?とんでもなかった…。何よりも、テニスを真っすぐに愛し、貪欲に成長していく眩しい姿はまさにYOU ARE THE PRINCE OF TENNISでした。

これは2.5次元と3次元と2次元を混ぜた話になっちゃうんだけど、映画スラムダンクがきっかけでバスケットボール(Bリーグ)を観戦するようになった私は「今牧リョーマは河村勇輝」説を提唱しておりまして…。

というのも、バスケを現地観戦してて目を引くのって、まさに今牧リョーマみたいな選手なんですよ。ボールを持つと会場の空気がギュッと彼一点に凝縮されて、彼なら何かすごいことをやってくれる!と期待してしまう選手。「その高貴な輝きに人は瞬きを忘れる 照れくさいほどの呼び名が似合う お前はまさしくバスケの王子様」と心の中で歌ってしまう。河村くんはそういうワクワクする気持ちを湧き上がらせてくれるし、競技への強い気持ちとか、チームでの存在感も含めてリョーマだなあと思わずにはいられなかった。
逆に河村くんを生で見たことにより、今牧リョーマのスポーツ選手としての魅力をリアルに実感することができた。今牧輝琉くんは役者だけど、今牧リョーマはテニスプレイヤーなんですよね。
今牧リョーマと河村勇輝、両方を現地で観劇・観戦するのおすすめです。