from heart beat

観たものについて書いたり書かなかったりします。

デスミュ2020感想

デスノート THE MUSICAL」開幕しました、おめでとうございます。
甲斐ラ初日と23日の2回を見ての感想だよ!

TDCで甲斐翔真くんの歌を初めて聴いた時から絶対ミュージカルやってほしいと思っていたので、情報解禁した瞬間に「初日に行くわ」と決めてました。
柿ラ・浦イトや初演組への思い入れが特にない人が書いたものなので、そこはご承知おきください。
ちなみに、原作は、ミュージカルでやってる辺りの話は大昔に読んでいて、ミュージカルは初演の浦イト・再演の柿ラを見ています。

全体の感想をざっくり

期待してたより良かった!というかPVの印象が凄まじく良くなかった。歌は(ほぼ)みんな上手いと思いました。逆に意地悪な言い方をすると、CDで聴いたらかなり満足度高かっただろうな〜。
Lの存在感が薄く、横田リュークがあらゆる意味でメチャクチャに強いので「死神の暇つぶし」で「リュークに翻弄されまくった男の子の話」だった。「二人の天才の頭脳戦」な印象は薄かったです。

「現代劇としてのデスミュ」とは

まず色んな人の感想で見かけた、初演再演からの変更点について。具体的にどこがカットされたか詳細は分かりかねるけど、確かに初日を見て「こんな話だっけ?」「展開が雑?」と思わなくもなかった。

ひとつ挙げるなら二幕のレムとライトのシーンがなくなり、レムの行動がライトの説明のみで処理されてしまった。その前の「愚かな愛」でこっちの気持ちは完全にレム寄りになっているので、この変更でライトの残忍さが浮き彫りになったと捉えることもできる、ポジティブに考えればね!!!実際、私は「ウッワーーー夜神月おま、おまえ…」ってドン引きしました。

こういうある思いを削ぎ落とすような変更について考える時に見つけたのが、演出の栗山民也さんの「初演再演は近未来劇だったけど、今回は現代劇としてやる」*1という言葉。さらにアフタートークの村井くんの話によると、栗山さんは「それ用にあえて脚本をカットした部分もある」とも言ってたそうです。

レムとライトのシーンがなくなった理由は正確には分からないけれど、感情のグラデーションが簡略化されたことによって違和感が生まれて、それが恐怖に繋がってるのかもしれないと思った。恐怖って言うと大げさかな。正気か?みたいなザワザワする気持ち。

またアフタートークで村井くんは、台本の印象を「ライトの怒りの沸点が低く、直情型になっていると感じた。最近の若者は急にキレるとよく言われるように、何をされるか分からない怖さがある」と話していた。

これについては、ライトとミサがスクランブル交差点で会う場面が思い当たる。ミサが粘ると突然振り向いたライトがミサを見下ろし無言の圧を加える。身長185センチの甲斐ラだと、ミサとの身長差がかなりあるので余計に怖かった。ちょっとワガママ言ってみただけのミサに対して、異常なくらい態度が急変する。あとはリンド・L・テイラーの件で、ライトがLに一杯食わされる場面もそう。でも、ここは傲慢な態度から焦りやイラついた芝居への変化がもっとほしい~!(突然の不満)

段階を踏まないことによって生まれる怖さがあるのは面白いなと思ったけど、脚本にない部分を芝居でどう埋めるかも役者の力量だと思うので、その意味では物足りないとも言えるのかな、難しいですね。

それから「現代劇」という点については、甲斐くんがインタビューで面白いこと言ってたので引用します。
SNSで誹謗中傷が平気でできるじゃないですか。それが原因で追いつめられて死を選んでしまうこともある。それって、ほぼデスノートですよね」*2

スマホネイティブ世代っぽい解釈だな〜!と思った。劇中、アンサンブル演じる一般人がスマホを熱心に操作する場面が何度もある。あれが全部、芸能人のSNSへのアンチコメントだったら…ifじゃなくて、もう現実にあるんですよねそういうのが。もし今デスノートが存在したら、ハッシュタグ「キラに殺してほしい人間」で顔写真と名前をつけて遊び半分にツイートする人が続出しそう。そういう状況が想像できる時代になってる。

まとめると、新生デスミュの言いたいことって、愛とは?法とは?正義とは?って問いかけよりも、手の中のそれで人を殺せる時代になってますよ、みんなデスノートを手にしてますよってことなのかなと私は思いました。栗山さんの作品は色々見てるけど、どこの国、いつの時代に書かれた戯曲でも、今この時間と繋がるものが浮かび上がってくるからすごい。

横田リュークがすごすぎた

新生デスミュ、なんと言っても一番の大発明は横田栄司さんのリュークでしょ。初演の吉田鋼太郎さんのリュークも好きだったので、なんだろう?シェイクスピアをがっつりやってる役者はリュークの才能があるんですかね。
芝居が上手い人は芝居が上手いんだなと…緩急が自由自在で、ひと言でその場の雰囲気を支配してしまう。マスコットのようなチャーミングな部分と、全てに退屈し、とにかく心躍ることを求める享楽的な部分が入り乱れる。その切り替えが鮮やかなのにわざとらしくなくて、弄ばれてる感覚がいっそ気持ちいいぐらい。

2回目に見た時、どこでリュークが「飽きちゃった」になるのかを知りたくて、大黒ふ頭から表情に注目してたんだけど、明確にここだって切り替わる瞬間はなかったように見えた。で、思い返すと、横田リュークってライトとLのゲームを煽ってスリルを味わいながらも、徹底的に俯瞰して眺めてただけなんだなと気づいた。佇まいとか喋り方とか全てに余裕があるからそう感じられたのかなあ。
「キラ」を歌った直後に「恋する覚悟」で踊りまくって客席を煽る場面ではさすがに息も絶え絶えで死にそうになってたけど!お疲れさまです!
甲斐ラはリュークをパートナーだと勘違いしてるけど、横田リュークからすると本当にライトはただの「人間」でしかなくて、夜神月という個人にはなんの執着もないんですよね。「哀れな人間」の「所詮その命、死神の手の中」という歌詞がぴったりくるパワーバランスだった。

歌も完全に自分のものにしてました。自分の声や体を知り尽くしてる役者って自然と歌も上手いんだなあと改めて感じた。成河ルキーニを見た時の衝撃に似てる。あと吉田さんカズさんは割とひょろっとしたリュークだったけど、横田さんは厚みのある体格で、舞台上で物理的にも存在感を放ってて良い。

余談:稽古に入った段階で、栗山さんいわく髙橋くんと甲斐くんは「舞台に立てる状態じゃない」だったそうで、横田さんが基礎をいちから叩き込んでくれる通称「横田塾」が開講されたらしいです。贅沢~!

その他キャストの印象

甲斐ラ
若い!青い!世の中の不条理ややるせないニュースにいちいち真面目に憤ってそう。政治家や警察官になってもこの世界を変えられないとどこか諦めていそうで、だからこそ常識を覆す手段を手に入れ理想に目覚める「デスノート」の熱唱が刺さった。「全ての悪を裁こう」「僕こそ新世界の神だから」の宣言に眩しささえ感じた。純粋な理想主義者で、狂ったのではなく、とにかく突き詰めて突き詰めて行き着いた先が間違っていた、みたいな。若くて眩しくて愚か。

柿ラの死に様には「まあ自業自得なので…」としか思えなかったんだけど、甲斐ラは「横田リュークに出会ってしまったのが運の尽きだったね…」って感じ。同情の余地があるぐらい横田リュークが強い。

歌は全体通して安定しているし、声量もあるんじゃないかな。「デスノート」の「不思議だ、世界が輝いて見える」の囁くような歌い方がすごく好きです。一幕ラストの「キーラ!キーラ!」で顔半分をノートで隠して、空いた左手の指をパキパキ動かしながらニチャァって笑うのがキモくて良かった。

でも、音を外さないように失敗しないように慎重になってるのかな?って部分があるから、そこをぶち破って心の動くままにやってるところも見てみたい。あと、やりきって魂抜けてるのかもしれないけど、カーテンコールで主役がダラ~っとしてると格好悪すぎるので、頑張ってシャキッとしてくれ!マジで!


髙橋L
歌が上手くてびっくり。あのPV本当によろしくないな…。
だけど芝居がなんだか響いてこなくて、すごく普通の青年っぽいL。芝居として歌ってないなあと特に感じたのが「揺るがぬ真実」。非現実的な存在の死神を認めるまでの葛藤と、認めて目の前の霧が晴れたようなイメージが湧いてこなくて、何を歌いたいのかよく分からなかった。ソロ曲がどれも同じようなのっぺりした印象だったんですよね…。てぺLのすごさが身にしみたし、Lって本当に難しい役なんだなと思った。


吉柳ミサ
初日はうーん?だったのに、2回目見たら別人かというぐらい変わってて驚いた。
太くて安定した低めの声で絶唱する「命の価値」がすごく好き。「縛ればいい」の歌い出しから、怒りや絶望や恐怖を必死に抑えつけてるのが伝わって苦しくなる。覚悟のミサって感じ。
ふうかミサの華奢で可憐なアイドル像とは違うけど、例えるなら、地下から地道なライブ活動で着実に人気をつけてメジャーデビューを果たしたけどメンバーの不祥事で解散を余儀なくされたアイドルグループの元リーダー、ぐらいの貫禄がある。昆ちゃんっぽいって言うのかな、エポニーヌやマルグリットが似合いそう!
写真より動画より実物の方が500倍可愛いです。


ヘナレム
めぐさん以外にあんなに「慈愛」を歌える人いるんですね…。「愚かな愛」の「せめて」に込められた思いに胸が張り裂けそうだった。芝居もさすがで、瞬きや目線でミサへの重すぎる気持ちが伝わる。何よりも吉柳ミサとヘナレムの相性が良い。
言語に関しては、初日に違和感のあった、セリフを文節ごとに区切るような間が2回目にはスムーズになってたんだけど、そこは変更があったのかな。聞き取りやすいし自然でこっちのほうが好き。
ミサの「ハチ公で」で犬みたいなポーズするのが可愛かった。


アンサンブル
デスミュのアンサンブルチーム好き!顔と名前が一致する人がたくさんいて嬉しかった。
ライトが若く青くなったぶん、「できるものなら」で、キラ事件の捜査に残るか悩む刑事たちのが苦悩が重く感じられた。特に藤田宏樹さんの「ああ娘よどうか、理解してくれ、パパの決断を」が泣ける。成人男性のソプラノ(って言うのかな?)いいよね。
「恋する覚悟」では栗山絵美さんがいたポジションにはまひーさんが入ってて、やっぱそこだよね!と思った。高身長女子好きです。
雑踏の中でひとり踊りまくってる渡辺崇人くん通行の邪魔すぎてウケる。


また余談:テニミュ出てない若手俳優もテニスできるだろって思考に侵されてるので、「ヤツの中へ」のテニスがなんかダサくて、そうかこの二人テニミュやってないのか!とびっくりしてしまった。えるしっているか、普通の若手俳優は「演劇でテニスやれ」と言われてもそんなすぐカッコよくできない。テニミュが特殊ということを忘れてた。


個人的には割と楽しめたのにチケットの売れ行きが絶望的なようなのでそんなに!?となっている。劇場の評判がスラムかよってぐらい悪いけど、一階なら他の劇場とそんなに変わらないレベルじゃないかなと思います。ただし座高ガチャ。客席内の階段が絶妙に転びそうな高さと幅なので気をつけてね。スニーカーでもコケました。

13500円払って見て大正解!とは堂々と言えないけど、気になってるなら(多分定価以下譲渡もたくさん出てるので)見てほしいです。