from heart beat

観たものについて書いたり書かなかったりします。

2022年「エリザベート」感想

エリザベート」の11/23~27の公演が中止になってしまいました。やってらんねーーーじゃあ感想ブログを書こう!ってことで書きます。こういうのは勢いが大事。

手持ちのチケットを全部もぎってもらうことは叶わなかったけど、約1カ月半の公演期間、めちゃめちゃ楽しかった。
2019年は、私の世界は木村達成くんのルドルフを中心に回っていたから、たつルド以外に細かい感想が出てこなかったんです(最悪)。今年は甲斐翔真が出るし、またルドルフに全て持っていかれるかな~と自分の偏向を心配していたけど、いざ開幕したらそんなことなかった。ちゃんと全体的に楽しめた!
そんな私が特に心奪われたポイント3つについて書きます。

 

愛希れいかさんのシシィ

絶対自由要求!で攻めの姿勢をしっかり前面に押し出すシシィという印象はそのままに、歌も芝居も2019年からとんっっっっでもなく飛躍していた。

まず「パパみたいに」での自然体な佇まい。2019年は、15歳という設定以上に幼く役を作っている印象で、声とはしゃぎ方に園児っぽさがあった。それが今年は、年相応な15歳らしい15歳になっていた。
落ち着きがなくぴょこぴょこ飛び跳ねるのではなく、運動神経が良くて体が軽い子ならではの動き方。マックス(父親)の前では飾らずにいられるんだなと分かるナチュラルな声。「ママは言うことあるらしい、ハア…」の大きいため息が、本当にうんざりしてるニュアンスでかわいい。
マックスに対して、親だからというよりその生き方に憧れているからこその親近感があったように思う。「パパみたいになりたい」の歌い方は「なれる」という未来への希望があってとても好き。ここのハツラツとした爽やかで真っすぐな憧れが、「パパみたいになれない」コルフ島で効いてくるんです…。

「私だけに」はすごすぎた、圧巻。もちろん2019年もしっかり自分のものにしていたけど、今年はより歌いこなしていた印象。与えられた歌詞ではなく、自分の心から自然に発せられた言葉として歌っているのだなと感じた。
歌っているうちに目が涙でキラキラしてくるんだけど、目からこぼれる涙ではなくて、感情の高ぶりに興奮して無意識に出てくる涙っていうのかな。歌っていないときの表情だけでこちらが勇気づけられる。右の拳をしっかり握る立ち姿はもう戦士なのよ…。ラストの「私にーーーーーー!!!!」は百発百中で気持ちが良すぎた!!全世界への叫び。大砲。噴火。はかいこうせん。ビリビリと震える劇場の空気に鳥肌が立って、呆然としちゃうぐらいすごかった。

2019年から一番変わったと感じたのは、シシィが年齢を重ねたことによる芝居のグラデーション。特に「私だけに」の後、結婚2年目から3年目の変化が上手すぎた!時間としては1年しか違わないのに、この期間の「子供を生む・ゾフィーに奪われる・味方しないフランツ・また子供が生まれる・また奪われる」って出来事の過酷さが、1年という時間以上にシシィを変えた。
結婚2年目は「私だけに」の後だから、「皇后の務め」でゾフィーに抵抗したときよりは芯がしっかりあるんだけど、それでも言葉と態度で「子どもを返して!」と示すことしかできなかった。
結婚3年目、また子どもを生んで、奪われる。そして自分の美貌が王宮で生き抜くための、自分の要求を通すための武器になると気付く。折れない気持ちだけが強みだった女性が、自分の身を守り反撃するための牙を手に入れる。
2年目から3年目、舞台上の動線としては一度パネルの後ろに隠れるだけなんだけど、耐え難い苦しみを経験して、敵の強大さ・置かれた環境の厳しさを思い知り、酸いも甘いも噛み分け済みですって顔になるんだよ…(実際「甘い」経験はほぼなかったかもしれないけれど)。
表情だけじゃなく、声と姿勢も全く違う!声はトーンが少し低くなり、有無を言わせない迫力がついた。凛とした立ち姿で、女中に「下がって」と伝える手の動きに風格がある。
ほんの数十秒で、経験による人の変化をこんなふうにオーラで表現できるんだと、ちゃぴちゃんの演技力に本当に驚き感動した。

そして精神病院のシーン、2022年版でやっとその重みが分かったように思う。
ちゃぴシシィは強さと孤独が表裏一体だった。自身が発光すればするほど、後ろの影が濃くなる。勝利宣言をした「私が踊る時」の後なのに、なぜシシィはこんなに弱さを見せるの?と思ってしまいそうだけど、その影の部分に気付かされるのが精神病院なんだなと、とても納得感があった。
「無礼者!」と言われ、戸惑い声を上げて泣くヴィンディッシュを、ちゃぴシシィは自分の魂と重ねて見ているんじゃないかな。泣きたいときに泣き、叫びたいときに叫べない自分の魂の代わりに、ヴィンディッシュが泣いていると思ったんじゃないかなと、そんなことを考えながら見たシーンだった。

 

トートダンサー

今年のトートダンサー(TD)、すごくないですか???!
2019年に見たときは、正直そこまで強い印象は残ってないんだけど、今年は何かが違う。なんだろう、バランス?TDってこんなに視線泥棒だったのか。
8人でひとつの生き物として見せる場面と、それぞれの個性を発揮する場面がはっきりしていて、どちらも見応えがある。注目しだすと止まらなくなった。8人の見分けがつくようになるとますます楽しい。
特に「最後のダンス」での古川トートとの一体感にはめ~~ちゃめちゃ興奮した。トートがマントをサッと広げると同時に周りのTDが跳ぶから、TDがトートの衣装の一部のように見えたし、トートが支配するエリアがぶわっと一瞬で拡大したようにも見えた。
「最後のダンス」、トートばかり見ちゃう気持ちをこらえてぜひ一度全体を見てみてほしい。前奏ではTDはゆったり漂う黒い霧のような存在。曲が激しくなるにつれて実体を得ていって、跳んで!回って!フォーメーション変わって!跳んで!回って!と踊りまくるサビは、トートと共鳴した荒々しい野性味にテンションぶち上がること間違いなしです。

「愛と死の輪舞曲」は、やっぱりシシィに一目惚れするトートの表情が見たくて、これまではオペラグラスでトートを見ることが多かったんだけど、今回初めてTDにも注目したら、振付の素晴らしさとTDの表現力に本当に感動した。
技術的なことは分からないけど、楽曲と振付の親和性がとんでもない。トートの感情を増幅させたような、一目惚れの甘やかさと切なさがドラマチックに伝わるダンスなんだよー…。
「心に芽生えたこの思い 体に刻まれて」辺りから始まる、TDが2人1組のペアで踊るダンスがめちゃめちゃ好きだった!!特に「その時お前は俺を忘れ去る」で、客席側に向かってペアの片側が相手役を手で追い求める動き、大好きです………。山野・五十嵐ペアを特に見ていたんだけど、追う側の山野くんが必死に欲しい物を求める顔をしていてすごく好きだった。

そんなわけで、今年は推しTD見つけちゃった~~~初参加の山野光くん!
初めて見たのは「イン・ザ・ハイツ」で、そのときもとても良いなと思っていたけど、「千と千尋の神隠し」では見つけるのが難しく…。エリザのキャストが発表された当時は、「イン・ザ・ハイツの子だ!TD!わーい!」ぐらいだったんですよ。そしてマイ初日、「なんかやたら大きくて手足が伸縮自在な人がいるな?」と思ったらそれが山野くんだった。
結婚式のダンスパーティーから「最後のダンス」に切り替わるシーン、招待客が捌けると同時にTDが次々と登場してくるんだけど、山野くんは上手から下手に向かって竜巻のようなとんでもないスピードで回転して、最後に側宙!!するんです!!!!こんなんもう好きにならずにはいられない。
「私が踊る時」でシシィの覇気にやられて階段と床を転がりながら捌けるときの、人間離れした動きもずっと目で追ってしまう。背骨の柔らかさどうなってるんだ。
動物に例えると、豹と蛇と鷲のミックス(???)。大胆さ、妖艶さ、静けさ、獰猛さ、全部持ってる。
それに、独立運動でツェップスに取り憑き死の呪いをかける瞬間のセクシーな顔と、ルドルフが銃を手に取る瞬間の「おれ、こいつのたましい、くう!」と言ってるような目かっぴらいたワクワク顔がとても好きだった。TDのメイクがめちゃめちゃお似合いです。
ダンス・オブ・ヴァンパイア」のヴァンパイアダンサーズで見たいよ~~!!あの長い爪と牙をつけて、「Feel the night」で踊り狂うところが見たい。

 

甲斐翔真さんのルドルフ

初見は想定外にヨワヨワ皇太子で、何もできずに死んでいったというか…。ルドルフって超おいしい役だし、もっと爪痕残せるはずなのになぜ?と思ってしまうぐらいだった。
それから1週間もしないうちに印象が180度変わって驚いた。父への不満は態度ではっきり示すし、独立運動に希望を見出すし、マイヤーリンクのダンスも体がよく動くようになった。こっちの方が断然好き。

まとまらないので登場シーンを頭から順に書いていく。まず子ルドを見て顔を歪める「我ら息絶えし者ども」、良きです。ママに会えなくて寂しかった時代の自分を見ているんだもんね。

2幕、「おはようございます、皇帝陛下」の硬さよ。フランツと顔を合わせるとルドルフがピリッとしたモードに切り替わるから、これだけでどんな親子関係か分かる気がする。「お前は記事を書いたそうだな」と追及されて「知らない」で誤魔化せると本人は思ってるけど、目泳いでるしウソつくの下手…。
「証拠も揃ってる」と言われため息をついて頭を振る仕草で、「証拠集めされてた違和感に覚えがあるんだ」って分かるから好き。尾行されたり、部屋を荒らされたりしたのかな。

「ママと同じ意見が間違いだというの?」はいやに冷静で、フランツの地雷をあえて踏みに行ってるように見えた。このキーワードを出せばフランツが動揺すると分かって言ったんだろうな。

甲斐ルドの推しシーンひとつめ、「HASS」。理由は芝居がめちゃめちゃに良いから!帝国の危機を訴えたのに背を向けて逃げるフランツを失望した表情で見つめて、なんとかしなきゃ、でもどうすればいい?って戸惑いと焦りがおろおろした動きでそのまま伝わってくる。
自分の掲げる自由の元なら人々を幸せにできると信じてきたからハーケンクロイツの幕を引き下ろすのに、民衆と対峙すると、この憎しみの前ではそんなもの無力なんだと突きつけられる。客席側に振り向いて顔を歪めて、このときルドルフ自身にも怒りの感情が湧いたんじゃないかなと思うんですよね。なんで誰も分かってくれないんだ?と。
そして「落ち着け」と深呼吸をするんだけど、「闇が広がる」の前奏が迫る中、不安に襲われて呼吸が段々荒くなる。自分のことが分からなくなっちゃう。ハプスブルク崩壊の足音が聞こえてきて、胸をかきむしり耳を塞ぐ。蝕まれていく心が表情と動きだけで伝わってきて、ぐいぐい引き込まれた。

「闇が広がる」は、古川トートとは子ルド時代からの「友達」の親和性があって、山崎トートとは導く者と導かれる者としての主従関係が築かれた印象だった。
「友達を忘れはしない」で心の内側の弱い部分を見せているような、情けなささえ感じさせる笑顔になるから、ああトートの思惑通りですね…ってなる。

甲斐ルドの歌は「ハプスブルクの崩壊防ぐため 独立運動と手を結ぶ必要があるのだ」が一番好きです。
「闇が広がる」で見せたクラシカルなミュージカルらしい発声ではなく、スパンと直線的に響く歌い方に変えていて、そういう使い分け大好き~~~!!って毎回爆裂に沸きました。私、甲斐翔真の歌声の使い分け自在なところが本当に好きで。「必要が」の「が」は高いから地声で出すの苦労するかなと思いきや、音量を全く下げることなく「がーー!あるーーのだーー!」と歌い上げていて、スキル~~!!ここ好きが詰まっていて本当に好き(好きしか言ってない)。

独立運動のダンスは、東京公演の後半になると踊りが体にしっかり馴染んできたように見えた。体がそれ仕様になって、心技体がひとつにまとまった感じ。
ハンガリー国王!」で目をキラキラさせたり、トートが見せるエーヤンルドルフの景色に顔をほころばせたりするのがとても好き。ここ、所詮はトートが見せる幻想なのに2幕冒頭の「エーヤンエリザベート」と曲が同じだし重なる演出になってるのがキツイ。後でも書くけど、甲斐ルドはシシィと同化したいルドルフだから…。

ハプスブルク!」の名乗りからは、もう終わりだという絶望や後悔は感じられず、帝国の皇太子として決着を付ける責任感のある言い方だった。名乗った後、拳を握りしめて全身をわなわな震えさせているのは、またフランツに邪魔されたという怒りもあったのかな。フランツにぶつける「父上ッ…!!」は、失望させたくてやったんじゃないよ、分かってよって心の奥底の気持ちが含まれているように感じた。

そして「ママは僕の鏡だから」ですよ。185センチ・しっかりした体格の人間がシシィの視界に入るために背中を丸めておずおずと歌い始める。「この世界で安らげる居所がないよ」は、僕の苦しみはママの苦しみと同じでしょ、って意味の「鏡」に聴こえた。手に入らない自由を介して鏡合わせの二人。

「僕はママの鏡だからママは僕の思い全て分かるはず」から笑顔になる。これがなんというか、湿度のある笑顔で息子らしく甘える愛らしさや爽やかさはなく、媚びてるっていうか降参ポーズを取っている印象。どう見てもシシィにルドルフを受け入れる気はなさそうなのに、こんなに一気にさらけ出すってことは、きっとシシィと会わない期間が長すぎて距離感が分からなくなっちゃってるんだなと思った。

ここも芝居がめちゃめちゃに良いシーンなんだけど、「孤立無援 誰も助けられない」のあと、ハッ!と何かに気付く仕草を入れる。そして「ママだけが」のあとは、ワハハッて少し笑うの!なにそれ、なにそれ(´;ω;`)

ハッ!の気付きは、最初からシシィにフランツを説得してもらおうとまでは考えていなかったことの表れだと思った。自分の置かれた状況のどうしようもなさと、積年の寂しさを分かってほしい一心でシシィに会った。苦しくて味方が誰もいなくて、とにかく母親の温かさを感じたかった。
自分をさらけ出すうちにシシィがアウスグライヒに影響を与えたことを思い出して、フランツとシシィをつなげて「ママだけがパパを説得できる」「ママは昔ハンガリー助けた」と言ってしまった。ここで急速にシシィの心が離れていく。でも甲斐ルドはますます笑顔になって「ドナウ連邦を作ればハプスブルクを救える!」と歌う。甲斐ルドは、かつてハンガリーを救ったママに自分を重ねて、「ママみたいになりたい」んだなと思った。

シシィにすがった手が振り払われると、嘘?理解できない…って顔になる。そこにないシシィの手を追いかけて、手が空を掻く。この動きがめちゃめちゃ良かった、つらくて。

マイヤーリンクのダンスは初見からしっかり体が動いてて良かった!達成くんと同じく、汗が血飛沫のように見えてドラマチックな効果を生んでいた。必死に踊れば踊るほど死に向かって加速していくように感じた。

銃を片手で掴むこともあったけど、両手でガバッと勢いよく掴みに行く方が自ら選択している印象になって好きだった。古川トートは後頭部に手を回しガバッとキス。山崎トートは横顔に手を添えるキスで、違いが面白かった。どちらかといえば終始ルドルフに対して厳しめで一定の距離を保っていた山崎トートが、死の瞬間だけ優しくなるのがかなり好きでした。引き金を引く姿に悲壮感はなくて、誰もこの結末を変えられない不可侵なものなんだなと納得感さえあった。このシーンの呼吸さえ許されないような静寂と緊迫感が癖になる。

甲斐ルドに関して冒頭からざっと振り返ったら長くなった(それはそう)。やっぱり元気いっぱいに生きて死んでいくルドルフが好きです。

わーーっと言語化して気持ちがすっきりしました。名古屋・大阪・福岡は完走できますように。