from heart beat

観たものについて書いたり書かなかったりします。

この役者に出会えて良かった賞2022

あけましておめでとうございます。
去年のうちに書き上げるつもりだったんだけど、某ハンサムが集まる祭りで騒いでいたらいつの間にか2023年になってた。

2022年もたくさん劇場に行き、たくさん演劇を見てきたぞ~!
振り返ると、良かった作品だけでなく「今この役者を見られて良かったなあ」とピンポイントで強烈に記憶に残った2人がいました。そんな2022年特にやばかった2人について書きます。

 

加藤清史郎
「BE MORE CHILL」マイケル役

とりあえずこの動画を見てくれ。

www.youtube.com

ヤッッッッッッバくないですか?????

 

どんな作品?

ジェレミー(薮宏太)はニュージャージー州にある高校に通う冴えない男の子。同級生のクリスティン(井上小百合)に密かに想いを寄せる彼は、ある日、学校のいじめっ子に日本製の超クールになれる「SQUIP=スクイップ」‹Super Quantum Unit Intel Processor›というスーパーコンピューター入りの錠剤の存在を聞く。親友のマイケル(加藤清史郎)にも相談し悩んだ末、この錠剤を手に入れたジェレミーはそれを飲むのだった。
そのスクイップ(横山だいすけ)のお陰で一時は何もかも思い通りになり、人気者になってきたジェレミーだったが、次第にスクイップに乗っ取られ、マイケルとの仲も悪くなり、人生が空回りし始める・・・

www.tbs.co.jp

 

どんな役?

主人公・ジェレミーの親友でゲームオタク。腕にパックマンのタトゥーを入れている。イケてない自分にコンプレックスがあり周りの目を気にするジェレミーに対して、マイケルは飄々としていてイケてる・イケてないの評価軸は大して気にしてない。こじらせ気味で内向的なジェレミーと、オタクだけどカラッと明るく達観しているマイケル。

最初に貼った動画の「バスルームのマイケル」は、スクイップのせいで性格が変わってしまったジェレミーに「負け犬!」と罵られたマイケルが、パーティー会場のトイレに一人こもって歌う曲……もうこのシチュエーションだけで胸が苦しくなる。

 

何が良かった?

一番心を掴まれたのはマイケルの弱さの見せ方。「今はイケてないグループだけど大学へ行ったら変わる、大丈夫になるさ」と言えていたマイケルが、作中で初めて弱さをさらけ出すのがこの「バスルームのマイケル」なんです。

ジェレミーに見捨てられて寂しい、悲しいってストレートな感情ではなく「負け犬!」というキーワードに自嘲的に笑うところでハッとさせられた。
マイケルは、クラスでのポジションに不安を感じていなかったわけではない。不安でも大丈夫だったのは、隣に親友のジェレミーがいたから。そのジェレミーに置いていかれて独りになると、これまで見ないふりをすれば大丈夫だったものに追いつかれて飲み込まれそうになる。周りからどう見られているか、本当は気付いていたのに平気なふりをして、今さら怖くなるなんてバカな自分だっていう自虐的なニュアンスがあるんだけど……これがつらくて可哀想で最高なんだ~~~~!!!!

最後の「マイケルって誰だ?」でも胸が大きくえぐられる。自分の名前を知っている人、ひとりの人間として認識している人はジェレミー以外にいるんだろうか。自分は空気のような存在なんじゃないだろうかって不安の叫び。
さらに劇中でクラスメイトがマイケルを「ヘッドフォンつけたコミュ障のやつ」と言い表していることで、カースト上位層からだとやっぱりそう見えるんだって分かってしまう。そういう言葉を遮断するためにマイケルはヘッドフォンをつけてるのかなって考えてしまって気持ちがぐちゃぐちゃになる。一見平気そうに見えていた子が実は……な展開、みんな好きだよ!

しかも歌が上手くてざらっとした声質も曲に合ってる。ビッグナンバーなんだけど気負わず、リアルタイムで生まれる感情の機微を漏らさないよう丁寧に丁寧に伝えてくれるから一層胸に迫るシーンになっていた。

あとマイケルの可愛いところはビジュアル!ジェレミー役の薮くんと並んだときのフォルムの違いが最高。ひょろっと背が高くて地味な服装のジェレミーと、もじゃもじゃヘア+メガネ+ヘッドフォンにワッペンでカスタムしたパーカーのマイケル。身長差もいい。カートゥーンネットワークのアニメに出てきそうなキャラデザだった。enterstage.jp

日本で「Dear Evan Hansen」を上演するときが来たらエヴァン役は加藤清史郎さんにやってほしい。

 

 

中川大志
「歌妖曲~中川大志之丞変化~」桜木輝彦/鳴尾定役

こちらもとりあえず動画を貼ります。

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

物販で売られていた桜木輝彦のレコードの解説文から引用。

とんでもない怪物の誕生である。

 

どんな話?どんな役?

昭和の芸能界に君臨する鳴尾一族に生まれながら、ねじ曲がった体と醜く引きつった顔を持つ鳴尾定と、歌謡界に彗星のごとく現れたスター・桜木輝彦の2役。定は自分を人目から隠し蔑んできた一族に復讐するために、闇医者に依頼し見た目を変え、桜木として歌手デビューする。

www.sanjushi2nd-2022.com

 

何が良かった?

中川大志さんにできないことってあるんですか?これが舞台初挑戦だなんて信じられないぐらい、舞台役者としての魅力にあふれていた。

歌っているところをテレビで見かけたことがあって上手いのは知っていたけど、スター・桜木輝彦としてのパフォーマンスを歌唱中の目線や仕草まで完璧に仕上げていたのがすごい。こんなのが出てきたらそりゃ昭和歌謡界が激震するわって説得力がある。キラキラの眩しいアイドルとは違う、瞬きも忘れて思わずじっと見入ってしまう求心力を持っていた。

映像で活躍していた役者が舞台初挑戦!となったら、声が出てなーい!軽ーい!ってちゃぶ台返ししたくなることもあるんだけど、中川さんはちゃんと生の観客に届けるための声になっていたと思う。滑舌もしっかりしててストレスがなかった。声が良い役者はそれだけでありがとうと拝みたくなっちゃう~ありがとうございます。

この過酷な作品を必然的にほぼ出ずっぱりになる2役で全48公演やりきったタフさにも触れておきたい。大楽後の中川さんのインスタ見るとやっぱり相当大変だったみたいだけど、完走したプラスαの爪痕を残してるんだよなあ。ていうか前世で何したら初舞台でこんなとんでもねー役をやらされるんだ。

顔の半分を覆う仮面と長いウィッグをつけ、背中を丸め、片腕を曲げ、片足は引きずって歩かなきゃいけない定の基本姿勢がまずめちゃめちゃハード。桜木だって歌うしアクションシーンもある。しかも桜木/定の早替えが結構えぐかったですよね?着脱するものがたくさんあるはずなのに、一番短いところだと1分もなかったんじゃないかな、感覚値だけど。袖のスタッフワークも見事だったんだろうな。腰と足お大事にしてください。

芝居の面は、桜木と定という2役の共存のさせ方がとても好きだった。
1幕の途中までは桜木と定のことを陽と陰、光と影、表と裏のようにそれぞれが独立した存在で一緒にはいられないのだと思っていた。桜木は人々の熱い視線と照明を浴びて輝き、定は闇に生きている。登場シーンのカラーが全く別物だし、桜木もその世界を楽しんでいるようにさえ見えた。

その印象がぶっ壊されたのが1幕ラスト。歌う桜木の目とオーラが徐々に変わっていって、内側から定の真っ暗闇がずるずると這い出てくる。この変化がもう~~素晴らしかったですね。
スイッチのように二人の人格ががらりと切り替わるのではなく、あくまで定が姿を変えたのが桜木で、どれだけ華やかな場に身を置こうが桜木の内面はめらめらと燃え上がるマグマのような復讐心でいっぱいだった。
憎しみが素直に行動に現れる定に対して、それを爽やかさというオブラートで包んで隠し持つ桜木の方がむしろ気持ち悪く見え始めたのが面白かった。

あと、中川さんは定にある種の純粋さを見出して演じていたんじゃないかなって思う。定って育った環境のせいもあってひねくれた性格をしているんだけど、なぜか生まれたての野生っぽい純粋さも感じられたんですよね。
世間から隠され、自由に出歩くことが許されなかったってことはつまり、身内以外と関わる機会はほぼなかった。定と対等に接してくれるのは兄だけで、他の人間からはたくさんの悪意を向けられていた。歪んだ狭い世界は定を痛めつけてきたけど、「これだけ」と決めたものにすがる腕の力強さも与えたんじゃないかなあ。
ストーリーが進んで外の人間と多く関わるようになるにつれて、煮詰まった復讐心と方向性を間違った純粋さだけだった定の内面がどんどん複雑になって、悲しく、人間らしくなっていくのが魅力的だった。

この物語って、誰も何も成し遂げることなく終わるんだよね。鳴尾一族の一大叙事詩で壮絶なラストなのに、振り返ると結実したものが何もない。中川さん演じる定が、桜木がここに生きていたことを観客は目撃する。でもそれで成立するし納得してしまう。そういうドラマとフィクションを背負えるバケモン級役者が中川大志さんだった。

なるべく早めに劇団☆新感線の作品に出てほしい。ていうか今回でヴィレッヂと縁ができたんだからあり得ない話ではないですよね!?

そして「歌妖曲」、なんと3月にWOWOWでの放送が決定しました。やったーーーーー!!!!!!ここまで読んでくれた人は加入して見ましょう。そして初見の感想をください。

www.wowow.co.jp

 

今年も良い作品、良い役者にたくさん出会えますように!